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限りないジャズへの探求と思いが、ひとつひとつの音となって現われる
ライブ・シーンで活躍中のジャズ・フルーティスト、待望の2nd ALBUM

ノリノート"NORINOTE"/小島のり子
\2.800WNCJ-2158(What's New Rechords)

サックスとのかけもちではない、「専業ジャズ・フルーティスト」の数は非常に少ない。小島のり子は最初はテナー・サックスとフルートの両方を吹いて演奏活動を行っていたが、フルートに専念するようになって十数年のキャリアを持つ、日本では特に貴重なジャズ・フルーティストだ。伝統的なハード・バップのスタイルを愛しつつ、ブラジル音楽からも多くのものを吸収し、作曲や編曲にも才能を発揮してリーダー・バンドを組織する彼女は、今や日本を代表するジャズ・フルート奏者と言ってよいだろう。

 この『NORINOTE』は、小島のり子の3枚目のリーダー作だ。二村希一(ピアノ)、澁谷盛良(ベース)、広瀬潤次(ドラムス)いうレギュラー・バンドの面々に、ガット・ギターの山口友生を3曲に加えた編成で、9曲中4曲が自身のオリジナル、5曲がスタンダードやジャズメン・オリジナルという選曲による構成。美しく印象的なメロディを創造するコンポーザーとしての側面と、他人の書いた「いいメロディ」をみつけてきて、そこにさらにひとひねりを加えて自分の音楽にする、というアレンジャーとしての側面が両方楽しめるつくりになっていて、僕はその点が特にうれしかった。

 たとえば3曲目の「カム・レイン・オア・カム・シャイン」のテーマ部分は、フルートのメロディに対してリズム隊の3人が応答する、という複雑なアレンジが施されているのだが、それがまったく不自然に聞こえず、いっけんさらりと流れていくあたりのセンスが実にかっこいいのだ。たとえて言えば、ハード・バップ全盛期にベニー・ゴルソンやクインシー・ジョーンズが小編成コンボのために編曲したスタンダード、みたいな洒脱さを、僕は彼女の編曲から強く感じる。本人がゴルソンを意識してアレンジを施したという「シェルブールの雨傘」では、ミシェル・ルグランの美しいメロディを尊重しつつも、オリジナルのセカンド・リフをそこに付け加え、さらに全体のコード進行を書き換える、という大胆な編曲を施しているわけだが、その結果としてわれわれの耳に届くサウンドは、「もともとこういう曲でしたよね?」と彼女がすました顔で言いそうなぐらい、ごく自然なたたずまいでそこに存在しているのだった。アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲「トリステ」を、ボサノバではなくミディアム・テンポのフォービートで料理して、ごきげんにスウィングさせてしまうあたりの茶目っ気も、編曲家としての小島のり子の魅力だと思う。

 作曲家としての彼女は、よりストレートに叙情的な部分を僕らに見せてくれる。「ヴェガ」や「ジョホールパルの黒豹」といったブラジル音楽からの影響を感じさせる楽曲は、彼女のそうしたリリカルな側面が非常によく現れたものだし、「ジャイアント・ステップス」を思わせる複雑なコード進行の「山茶花」でさえも、もしかしたら鼻歌でうたえるのではないか? とこちらに思わせてしまうほどに、親しみやすく美しい旋律を彼女は書いてしまうのだ。

 コンポーサー=アレンジャーとしての小島のり子のことばかり書いてきたが、もちろん彼女の最も大きな魅力は、その温かみのある音色とメロディアスなアドリブ・フレーズを特徴とする、フルート奏者としての側面だ。これはもしかしたら、彼女がテナー・サックスを吹いていたことと関連するのかもしれないが、フルートに特有のエフェクティヴなプレイやフレーズが少なく、「丸く、太く、温かい音色で歌心のあるフレーズをきっちりとスウィンギーに吹く」という、実に当たり前だが実に困難な作業を、小島のり子は常に心がけているように思える。バラードの「ウィル・ビー・トゥゲザー・アゲイン」では、低い音域のアルト・フルートを吹いているが、特有の存在感を持つアルト・フルートの音色を効果的に使って、曲に内包されているメランコリックな叙情を、これ以上ないほどにくっきりと浮かび上がらせている。

 リーダーをサポートするリズム・セクションにも触れておくべきだろう。ここでの彼らのプレイは、一言で言えばとにかく「温かい」演奏なのだ。リーダー=コンポーザー=アレンジャーとしての小島のり子の意図を完全に理解し、決して奇をてらわず堅実に、しかし随所にきらりと光る局面を見せてくれている。また、3曲に参加している山口友生のガット・ギターは、温かい音色とメロディアスなフレージングという点で、小島のり子のフルートとの相性が非常にいい。理想的なメンバーに囲まれて伸び伸びと自分の音楽を提示できたこの『NORINOTE』は、彼女自身にとっても満足のゆく会心の作品になったではないだろうか。

(October 2005 村井康司)

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